【漫画感想】『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』第1巻

『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』第1巻の感想です。

まずは通して読んでみての全体の感想から。

『高度に発達した医学は魔法と区別がつかない』第1巻感想

タイトルと美麗な絵に惹かれて手に取ってみたこの作品。題材的にも好き嫌いが分かれそうだけれど、とりあえず1巻を読んだ時点での感想としては、”面白い、続刊を読んでみたい”でした。

一応医療漫画なのだけれど、タイトルに”医学”と”魔法”が入っている時点で察せるでしょうが、こちらも一応は昨今はやりのいわゆる異世界ものの一つなのでしょう。ただし最近巷に溢れているような”転生して、チート能力を与えられて、無双する”みたいなおバカなストーリーではなく、どちらかというとテイストとしては同じく異端の医療漫画である”JIN”に近いような感じかな。『JIN』では優秀な外科医が江戸時代にタイムスリップするわけですが、その異世界版というのかな。ちなみに、転生ではなく異世界に迷い込む(神隠し)みたいな感じかな。内容は結構シリアスでしっかりしていました。

主人公のユイト(天海唯人)は『他人のために』ばっかりのワーカーホリック気味な天才(?)医師という感じで、そのお人好しが高じて冒頭では無医村に行くことになっています。

なんとなく”Dr.コトー”的な雰囲気もあるのかな。まあ、無医村行きは今のところはあまり話に関係なさそうだけれど。後々、この村と異世界行きとが関係を持ってくるのかな??

で、無医村に到着したその晩に診療所ごと雷に打たれて、異世界に迷い込むことになります。異世界に飛ばされたのはユイトと彼が引っ越しに際して持ってきていた二つのカバンだけ。

そこから先は完全に異世界ファンタジーのお話になっていきます。もちろん、異世界へ迷い込むと言うことで、舞台は魔法の存在する世界。魔法だとか魔獣だとか亜人種だとか、その辺りを活かした展開も魅力的です。何より画力が高くて繊細に描き込まれているかつ、世界観も結構作り込まれている感じなので普通のファンタジーものとしてもかなりクオリティが高いように思います。

では、もう少し内容に踏み込んだ感想を…。

“治療魔法”というものの存在

個人的に良かったのが、異世界といっても、いわゆる”異世界もの”の定番設定のような”転生先の文明レベルが低過ぎるおかげで現代の常識程度のレベルで無双できる”という感じではなく、どうやらこの世界にもユイトのもたらす現代医学の医療技術に匹敵しうる”治療魔法”というものが既に存在するらしいこと。

で、どうやらこの”治療魔法”ですが、今のところまだ詳しくは分かりませんが、意外と細かく細分化されているようです(”マスイ”という治療魔法もあるとのこと)。そこから推測するに、この世界の”治療魔法”というのは、どうも呪文を唱えれば悪いところが瞬く間に全部治っちゃうみたいな感覚的な代物ではないようです。むしろ医学をそのまま魔法に置き換えたような物、つまり術者に人体の構造はもちろんのこと、病気についてもそれぞれの症状についての深い理解と造詣を要求する類のもののような気もします。まあ、情報が足りなすぎるので、憶測の域を出ませんが…。

この”治療魔法が存在する”という設定はかなり大きいですね。この世界の住人たちは現代医学は知らないという設定なわけですが、それは医療という概念を全くしたないというわけではなく、医学に代わるそれと同等(?)の結果をもたらす”治療魔法”の存在によって、病気や怪我という概念は理解していますし、それこそ”治療魔法”を用いれば、ある程度の病気や怪我は治るもの、という感覚を持っている人々というわけです。

いわば、現代に生きている我々と同じようなものです。現代人だって医者でもなければ、大抵の人は病気の症状だとか、治療法の中身に精通していないですよね。で、医者の説明を聞いて”へー、そうなんだー”、”そうやったら治るんだー”なんて納得するわけです。

つまり、何が言いたいかというと、この世界の登場人物たちは現代医学の手法に驚くものの、必要以上に過剰な反応は示さないということ。そうすると、読者として、登場人物たちと同じくらいの熱量で物語を読み進めることができます。加えて一応医療面に関しては監修が入っているようなので、専門性もそれなりにあり、読者目線からしても上記のように”へーそうなんだー”となるので、なかなかバランスも良いです。

治療魔法と現代医学

ところで、この”治療魔法”というのはこの世界において人間族にのみ与えられた力だそうで、現時点ではそのノウハウは全て人間族だけに占有され、亜人たちは虐げられているのだそう。元々は亜人や魔族、竜族に比べて、なんの力も持たない虐げられる存在だった人間族を哀れんだ神が自らの奇跡を分け与えたというのが始まりだそうですが…。

治療魔法の占有によって神の思惑とは裏腹に人間族は増長してしまったと。かといって、神様としては人間から”治療魔法”を取り上げて、再び虐げられる存在にするわけにもいかない…で、結果”世の理を捻じ曲げず理を持って誰しもが手にできる知の力”として亜人たちに医学を与えようとしたということらしいです。

さて、作中でも言及されていますが、この”治療魔法”が流出すれば、この世界における人間の優位性は確実に瓦解します。なので、そうならないように人間たちは細心の注意を払って流出を防ごうとしているようです。

しかし、仮に亜人たちがユイトのもたらす現代医学を習得してしまえば、同じように人間の優位性は崩れ去ります。それこそ現代医学がこの世界の”治療魔法”を上回るなんてことがあったりなどすれば…ね。もちろんそうなったとしても、全く何の力を持っていないのとではだいぶ違うのでしょうが…。

そもそも、人間だけに与えられたという”治療魔法”といっていますが、人間なら誰でも使えるというわけではないようです。どうやら人間の中でも占有が行われているのか、教会関係者のみが使用できるようですね。

ともかく、”治療魔法”が人間族の中でも選ばれた者にしか使えないもので、かつユイトの現代医学が”治療魔法”に完全に置き換わりうるとなるのであれば、亜人たちが医学を身につけることは、この世界のパワーバランスを完全に書き換えます。

そもそも現時点で人間族は”治療魔法”を盾に他種族に対して強硬な姿勢でその優位性を推し進めているわけですから、他種族から大きな反感を持たれています。このタイミングで人間族が優位性を失えば、多種族の蜂起は必至でしょう。

とはいえ、もちろん作品中でも”現代医学”と”治療魔法”はもたらす結果はさておき、アプローチの仕方は全くの別物ですから、完全に取って変わりうるということはないんでしょう。そもそももし取って変われてしまうのなら、人間から”治療魔法”を奪うのと似たような状況ですから、それは神の思惑から外れることになりそうだし。

そうなると、”治療魔法”に現代医学より長じる部分があるということになりますが…。ただ、かと言って現代医学が完全に”治療魔法”の下位に位置するとなると、それはそれで異世界に連れてこられたユイトの立場がないような…。それこそ今後メインで描かれるのは現代医学の方だろうし…。

となれば、それぞれお互いが持ち得ない長所と短所があるという話になるのだろうけど…。今の所、予想できる魔法の方の長所は即効性と切開など治療によるリスクを抑えられるというあたりかな…。さてさて、どこをどう差別化していくのか、この辺り次第で作品自体の面白さにも影響していきそうですね。

それと、今の所ユイトはこの世界における”治療魔法”や人間の立ち位置などについては知らない状態ですが、ユイトはヒロインのコロネにしているように今後も善意で亜人たちへ現代医学の知識を与えていくのでしょう。その善意が同時にこの世界の人間たちを危機的な状況に押しやると知ったら…、いわば命と命を天秤にかけるような状態で、その時にユイトがどういう選択をするのか…その辺りも見どころです。どの命を選択するのか、倫理観の話というか、物語自体がかなり重めのテーマを孕んでいるようですね。さて、この辺りどう話を持っていくのかな。

ただし、”誰しもが手にできる”ということはユイトのもたらす現代医学はこの世界の人間族も努力次第で、手に入れることができるということ。今の所、コロネのこともあり、ユイトは人間の国を避けようとしているようなので、人間族が現代医学に触れる機会はまだまだなさそうですが、そのあたりもどう展開していくか面白そうです。

異世界ものだけれど意外と現実的

ここまで読んでいただいた方にはすでに十分伝わっているともいますが、私は個人的に量産型の”異世界転生もの”や”追放もの”があまり好きではありません(もちろん、”異世界転生もの”や”追放もの”と言っても中には設定をうまく活かして非常に面白い作品もありますし、好きな作品もいくつかあります)。

この作品も異世界ものではありますが、”異世界ものアレルギー”の私も楽しく読めています。

というのも医者を主人公に据えているということで、必然的に物語が論理的、理知的に進むのも良い感じです。医者という設定上主人公は論理的思考と客観的視点を備えているので、いわゆる”転生もの”や”追放もの”にありがちな、”えっ、普通のことしただけのつもりなのに、俺なんかやらかしちゃった?”的な主人公のすっとぼけ展開は生じません。個人的にはあれがもはやアレルギー….。

それに医者という職業上、常識レベルのことでも、一般人向けに一から丁寧に教えるという状況にも違和感は少ないですし、あくまで医学知識という専門知識を教えるということなので、わざとらしさもあまりありません。なので”えっ、当たり前だと思ってたのに、これ普通の人は知らないことなの?”みたいなわざとらしい”異世界もの主人公的展開”は発生しないんじゃないかな(笑)

さらに主人公が現状の分析や周りの登場人物の知識や理解度の整理などもきちんと現実的にしているようにある程度客観的に話を作り込んでいるようです。まあ、医者が、”えっ、なんかやっちゃったけど、これってすごいことなの?”みたいなやつだったら信用できないしな…。

“異世界もの”にありがちな主人公の”凄さ”を際立たせるためだけの”無能/馬鹿”キャラが登場しないのも良いです。この作品の登場人物たちは、医学の知識がないだけで、押し並べて皆ある程度の聡明さを持っているように描かれています。で、登場人物たちを読者の代弁者的な立場に置いている感じ(つまり読者と同程度の予備知識は登場人物たちも備えている前提)なので、違和感も少なく読みやすい。

医療器具の説明や、処置の説明などは、あえてユイトに説明させたりせず欄外(?)の地の文で説明される、あるいはユイトが説明するとしても、全くの素人から医療を学ぼうとするという立ち位置のコロネがいることで、彼女に対する説明という形なので自然な流れに感じて、この辺りの構成も個人的に好きな点です。

あとは、設定も意外と現実的かつシビアで、第一巻の段階ですでにユイトが持ってきた器具の一部が足りなくなり始めているという描写が入ります。この辺りも、これからどうやって補っていくのか注目ですね。道端で偶然似たような機能の備わっている異世界アイテムを拾うみたいな都合の良い展開じゃないといいけど(笑)

敵か味方か 謎に塗れたもう一人の主人公格

ユイトに敵対する存在なのか、もう一人の主人公格なのかはまだ不明ですが、この治療魔法を非常に高いレベルで修めているらしき人物も現れます。今の所まだあまり登場シーンはありませんが、どうもユイトと対になる存在のように思います。

奴隷商人から多額の寄付金を巻き上げたり、他の発言からすると”治療魔法”を人間だけで占有しようとする教会の急先鋒のようにもとれますが、なんとなくそれだけではないような気もする。不思議な雰囲気を纏った人物です。

少なくとも後で登場した治療を放棄してエルフの国から逃げ出したクネルソンとかいう魔法師とは違って、小物感は全くない。

危うげな美貌を持つ性別すらわからないこの人物の名はエクレス。人間族の司祭の地位にいる人物のようですが…。

第一巻ではまだ3度ほどしか出番がなかったのにも関わらず、鮮烈に印象に残っています。

ヒロインたちが健気で可愛い

ヒロインたちがそれぞれ個性があって魅力的なのも良いですね。そもそも彼女らに限らず、キャラクターデザインや服のデザインなど全体的に非常におしゃれです。

メインヒロインになるのはおそらく獣人のコロネでしょうか。ユイトが異世界にきて初めて出会った人物で、かつ初めての患者です。

とある事情で、村の長である実の祖父の手で奴隷として売却されてしまった上に、奴隷商に連れらる際にアナフィラキシーショックの症状が発病し隊列の足並みを乱したことで、処分されかけるという、かなり辛い目にあった少女。

アナフィラキシーで死にかけていたところをユイトの治療で一命を取り留め、色々あってユイトの奴隷という体で一緒に旅をすることになります。

ユイトと共に森神の治療にあたった際に、自分を奴隷として売った村の人々の手当を頼まれ、一瞬逡巡したものの、すぐに彼らを手当する決断をした優しく強い少女です。めちゃめちゃ健気ないい子です。

そしてユイトの”医療は 君だって誰だって学べば使えるようになるものさ 一緒にやろう”という言葉に励まされ、ユイトに医学を師事することを決意します。

第一巻ではもう一人、ヒロインになりそうな女性キャラが登場します。それが、次なる舞台となるエルフの国の王女ユノ。

どうやら現在エルフの国は”血吐き病”というものに悩まされているらしいのですが、それを治しにきたはずの人間の魔法師が逃亡するという大問題が発生します。

魔法師を連れ帰るために一人国を出ていたところで黒色狼に襲われ、頭部に傷を負ったところにユイトたちが通りかかり助けられます。

実は人間の魔法師が治療を放棄して逃げ出したことで、母でありエルフの国女王でもあるメリーナがエルフの国を陰で牛耳っている感じのカタギではないような過激派団体(?)に人質としてとらわれています。そんな状況で自分がなんとかしなくてはと気丈にたった一人で魔法師を探していた、こちらもコロネに負けず劣らず健気な少女です。

治療後意識を取り戻したユノから事情を聞いたユイトがエルフの国へと訪れることを快諾したことで、彼女は安心と喜びの涙を流します。ほんと健気。

そして、最後にもう一人。この人物は今後どうなるのかまだわかりませんが、デザインや役回り的に使い捨てキャラにはならなそう…というか個人的になって欲しくないキャラクター。

彼女は件のエルフの国に派遣され治療をせずに逃亡した人間の魔法師の一人です。名前はサイア。ただ、魔法師とは言っても、どうやら一緒に派遣されたクルネルソンより立場は下なようで、サイアは彼のいうことに従わざるおえない…というような感じなのかな。

とはいえ、彼女もまたエルフの国での治療を放棄して逃亡した魔法師で、いわば悪役側です。ただ登場シーンも少なく、今後どうなっていくのかはまだわからないところ。早々に消えていくにしてはもったいない。

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