『追放者食堂へようこそ!』第10巻感想 | ついに黒幕宮廷料理人ヒースが動き出す!?

『追放者食堂へようこそ!』第10巻の感想です。

黒いクッキーの流通

さて、ヘンリエッタやパチェルらの活躍に焦るビビアと、自身の力不足を不甲斐なく感じるグリーン。お互いに弱いところを見せ合い、”近道も裏技もないから自分なりにちょっとずつやっていこう”と仲間の絆を深め合ったところでしたが…

せっかくいい感じで話がまとまったかと思ったのに、その直後”食べるだけでレベルが20上がる強化食材”の話を耳にしてしまうビビアとグリーン。まあ、近道、裏道技、楽ができるなら多少の問題には目を瞑ってでも楽をしたくなるのが人の性というもの。

どう考えても、やばい話なのにビビアもグリーンもすっかりその気になって、件の強化食材の出所である怪しげな水煙草屋まで行ってしまうわけですが…。そこで出された強化食材というのが”黒いクッキー”。

どう見ても怪しい。見た目もなんだかドクロか怪しい仮面みたいです。結局ビビアもグリーンも服用せずに、この件はギルドに報告されましたが、なんとこの黒いクッキーの真の出所がまた問題なんです。

ちなみに、この”黒いクッキー”ですが、こういう類の眉唾物には珍しく、デニスが鑑定したところ、なんとその効果は広まっている噂通り、というよりそれ以上で”一枚食べればレベル換算して20~30上がる”とのこと。で、その正体はデニスと同等以上の”料理スキル”の持ち主が、副作用を無視(あるいはあえて副作用を調整)して強力なバフをかけたものだそうです。

真の黒幕についてはすでに作中でも明かされていますが、こんな芸当ができるデニス以上の料理スキルの使い手で、尚且つこういうことをしそうな人物といえば一人だけ…。

ちなみに、この”黒いクッキー”ですが、どうやら”商人組合を通じて”全国へと流通させているらしい。どう見てもやばいこのクッキーの流通に商人組合という表だった正式な組合を堂々と使っているということは、宮廷料理人の立場を利用して合法的に行っているということなのか…。確かに国王をあそこまで好き放題にできる立場なら、なんでも押し通せるか…。

表立って動き出したヒースの思惑は??

ヒースは本気で国を”調理”しようとしているようですが、まだまだ彼の思惑の全貌は窺い知れません。国を乗っ取ろうとしているというよりは転覆させようとしているようですが…。”調理”ということは、その先に完成された”料理”があるはず。

では、彼が見据える”料理”はどんなものなのだろうか。

ヘズモッチに語るところによると、彼は”最大の料理”を作りたいのだと、そして最終的な目標は”みんなを「満腹」にさせること”なのだと言っています。しかも、本人曰く、これは建前でもなんでもなく、心の底から言っているらしい。

すでにヒースの異常性を知っている読者としてはこの発言も異様に思えますが、一聞しただけであればヒースのこの言葉は料理人の理想としては真っ当というか、なんの問題もないように感じます。むしろ、崇高な理想なのではないかなとすら思いますが…。

でも、ヘズモッチはこの”満腹”という言葉で、ヒースという人間の本質を理解したようです。

なんだろうか。ユニークスキル『真心』に目覚めたヘズモッチだからこそ「満腹」という単に”物理的に満たす”だけとも取れるような言葉を使うヒースに何か感じることがあったのだろうか。

今巻ではそんなヒースが、ついに表立って行動を起こし始めました。それにしてもまさか次期宮廷料理人に自分を推薦するようヘズモッチに強要しに自らレストラン・ブラックスに訪れるとは…。

ヒースのユニークスキル

さて、ヒースからの半ば脅迫めいた要求を断ったヘズモッチですが、自分の要求通りに動かないヘズモッチをヒースは躊躇いもなく殺そうとします。この際、感情を露わにして怒ることもなく、ただただいつも通り一人だけ楽しそうに笑いながらヘズモッチの殺害を試みるヒースには説明し難い怖さがありますね。サイコパス感がさらに増しました。

ヘンリエッタら警察棋士部隊の登場で、なんとか一難さったかと思いきや彼女らを圧倒するフィオンレンツァ。そして、警察棋士部隊の登場なんて意にも介さず、尚静かにヘズモッチを追い詰めていくヒースの怖さったらないんだって。ジーンの参戦でヘズモッチは辛くも命拾いしましたが、そのジーンすらも余裕で相手どる強さ。

能力も得体が知れないだけに、より一層怖さが増します。

デニスと同等以上の力を持つということから、当然ヒースもユニークスキルを持っていることは予想されましたが、ヒースの手から溢れ出す影のようなあのスキルは一体なんなんでしょうね…。ヒースの料理人としての理想・信条が”みんなを「満腹」にする最大の料理を作る”であるなら、それに関連するような能力かと思うのだけれど…。

能力を受けたヘズモッチは”身体が重くなり”、”意識が途切れそう”になっています。何か吸収系のスキルかと思いきや、この影を纏った素手でジーンの作った槍を破壊し、さらにはジーンの脇腹に傷をつけるという力技も見せています。

ヒースのスキルで黒い痣のような傷をつけられたジーンはどうやらその傷に何かしらの異常性を感じ取った様子。へズモッチの問いかけに痣を抑えながら重い雰囲気で”なんでもない”と答えを濁していましたが…。途中まで傷を受けたことに気づいてすらいなかったから、内臓損傷とかいわゆる痛みを伴うようなものではないんだろうな。とすると、呪いみたいな感じなのだろうか。ヒースの言いようのない嫌な感じからすると、そういう系はむしろしっくりくるけど…。仮に”黒いクッキー”の話が伏線だとすると、それこそレベル換算で20~30下げるような超強力なデバフとかか??

エステルの初めての友達

ちなみに、ヒースの動きで、結構シリアスみの強かった第10巻でしたが、実は間にはお転婆次期国王エステル姫のハートウォーミングなお話も。

色々あって(長いので省略)お弁当配りをすることになったエステル姫が闘病中の少女ティアと知り合うお話です。ティアは心臓病を患っていて、長い治療生活の中病気の快癒も諦め塞ぎ込みがちになっていますが、まあとりあえず勢いで動くデリカシーと常識のかけたアホの子エステル姫は出会って早々に色々とティアの地雷を踏み抜くわけです(笑)

でも、次期国王として、何より一人の友達としてティアを元気づけようとエステル姫は”カツ丼作り”に取り組みます。まあ、ここでやるのが”カツ丼作り”なのはご愛嬌。料理漫画ですからね。

ただし、エステル姫はお箸さえ使うことのできない超絶不器用なので、料理なんてとんでもない。当初のエステルの料理は常にモザイクが付き纏い、あのデラニーですら食べることを拒み、アトリエに至っては机の下で恐怖に震えるほど…。そして最大の被害者グリーンは死に至ります(笑)

これを、なんとかティアが食べられるレベルにまで練習していくわけですが、その過程でエステル姫は自分が今まで”色々諦めてきた”こと”難しいことから逃げて したいことだけ かっこいいことだけ 言いたいことだけ やってきた”ことに気がつくわけです。

父王との関係も絡めて、それなりに真面目な話なのにエステル姫のせいでコミカルすぎて笑えてしまう。そもそもエステル姫の頑張りの根底は”偉そうなことばっかり言ってすぐに諦めてきた そんな人間が 病と闘ってる者に説教などできるわけがない”ということなので、結構重いテーマなんですけどね。

そして、何度もの失敗を経てようやくエステルのカツ丼からモザイクが取れた時、偶然にも(?)ティアが食堂にやってきて…。その先のハートウォーミング展開はご覧ぜよ。もちろんエステル(コメディ)回なのでオチがつきます。ヒースの登場回とは一転してこちらは非常に平和なほんわか回でした。ティアも前向きになって再び王都での治療を望んでいるそうですが、願わくば今後ティアの病気回復にヒースが絡んでこないことを…。

とりあえず、アホの子なエステル姫は可愛い。

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